オカヤドカリの基礎知識

そもそもオカヤドカリとは何者なのか。

飼育が簡単だとか、世話の手間がかからないとか、見てるだけで癒やされるなどの情報を見かけるが、実際のところ相当に手間がかかるし、人に懐くどころか常に外敵扱いされるので、目の前で元気に動き回ることもない。

見た目も動きもユニークで可愛いのだが、残念ながらオカヤドカリは愛玩動物ではなかったりする。



オカヤドカリの生態

生物学的には、エビ目(十脚目)・ヤドカリ下目・オカヤドカリ科・オカヤドカリ属に分類される甲殻類(甲殻亜門)。
熱帯域に分布するヤドカリの仲間で、日本には7種類のオカヤドカリが確認されており、その中で「C.cavipes」という種が一般的に「オカヤドカリ」と呼ばれているのだが、普通に販売されているのは「ムラサキオカヤドカリ(C. purpureus)」と「ナキオカヤドカリ(C. rugosus)」で、ムラサキオカヤドカリもナキオカヤドカリも販売時には区別されていない。
国内では小笠原諸島と南西諸島に生息しており、植物メインの雑食性で、自然界では植物の葉や実、海藻、魚の死骸などを食べているので、「海の掃除屋」という微妙な二つ名を持っており、人間の残飯も食べる。

十脚目と呼ばれるとおり、エビやカニなどの甲殻類の脚は5対10本。
オカヤドカリは後ろ2対の脚で貝殻を背負っているので、普通に見えている部分はハサミを入れて3対6本になる。

寿命は20~30年という長寿の個体もおり、脱皮を繰り返して成長していく。
脱皮は地中に潜って行い、脱皮の期間は1週間から長い場合は2ヶ月以上かかることもある。

陸棲のオカヤドカリには水棲の名残があり、甲部でエラ呼吸、腹部で皮膚呼吸をしているが、いずれも湿った状態で空気中の酸素を取り込んでおり、乾燥すると窒息してしまうため、宿貝の中に少量の水を貯めて乾燥から身を守っている。
また、エラ呼吸をしているといっても、魚のように水中の酸素は取り出せないので、呼吸のため水分は必要だが、水中では呼吸ができない。

エビやカニと同様、メスは抱卵して、卵が成長してくると海中に「ゾエア」という幼生(プランクトン)を放出するので、海に近い場所に生息している。
また、エビやカニの仲間なので、有機溶剤などの石油類、鉄や銅などの重金属、農薬やメチレンブルーのような魚病薬などの薬品に弱く、残留農薬でも生命が危険に晒されるようなので、取り扱いには注意が必要。

国の天然記念物

国産のオカヤドカリは国の天然記念物に指定されている。
ただ、「絶滅のおそれのある野生動植物」というわけではなく、「特別天然記念物」でもないので、国の許可を得た業者は捕獲が可能で、その個体が流通しているのだが、許可を得ていない一般人が、沖縄の海岸でオカヤドカリを見つけて持ち帰ると「文化財保護法」違反になり、「5年以下の懲役若しくは禁錮又は30万円以下の罰金」に処されてしまう。

柴犬もペットにできる天然記念物だし、プーチン大統領やザギトワに送られた秋田犬も天然記念物なので、意外とペットにできる天然記念物は身近にいたりするが、オカヤドカリは数百円で販売されている、ちょっとお安い国の天然記念物。

オカヤドカリの飼育

オカヤドカリは陸上でエラ呼吸をする特殊な生態の生き物なので、飼育する場合は自然に近い状態を作ることが基本。
彼らには物を考える「脳」はないのだが、神経が脳の代わりをしているらしく、身辺の事象を「感じている」ため、見られたり触られるのは捕食される危険を全身で感じることになる。

人間で例えれば、透明の建物に監禁された状態で、20階建てのビルくらいの巨人が、覗き込んできたり摘んだりするのだから、堪ったものではない。
心臓が弱ければショック死しても不思議ではない状況だったりする。

気温と湿度

オカヤドカリは高温多湿の熱帯~亜熱帯に生息する生き物なので、寒さと乾燥に耐性がない。
沖縄は真冬でも平均気温が15℃、湿度は65%を下回ることがなく、気温は年間平気23℃、湿度の年間平均は74%になる。
また、沖縄の年間降水量は2000mmを超えており、降水量が少ない冬場でも月間100mm程度は雨が降る。

湿度は呼吸に水分が必要なオカヤドカリにとって非常に重要なので、水槽内もできるだけ60%~80%に保つようにする。
一時的に湿度が40%前後まで下がってもオカヤドカリが死ぬというわけではないが、目に見えて活動が鈍くなるので、乾燥状態が続くようなら環境を見直したほうが良いかも。

床砂と水槽

オカヤドカリは日常的に3cm~5cmほどの穴掘りをし、脱皮するときは2cm程度の個体でも10cm以上の深さまで潜っていく。
脱皮中は他のオカヤドカリに襲われやすいため、床砂が浅いと他のオカヤドカリに発見される可能性が高く、脱皮の安全性が著しく損なわれる。
床砂の厚みは最低でも10cm程度は必要で、推奨されるのは15cmくらい。

床砂が乾燥しているとオカヤドカリが上手く潜れないだけでなく、潜った後で身体の水分が砂に奪われてしまうため、砂は必ず湿らせておく。
ただ、水に浸かっているような状態では、呼吸ができなくなるので、砂団子ができる程度を目安にすると良いかも。

水槽のサイズと飼育可能な個体数は、3cm前後の個体であれば45cm水槽で3~4匹、60cm水槽で5~6匹が目安らしい。
それよりも多いと絶対ダメというわけではなく、飼育の難易度が高くなるといった感じ。

単純に狭い空間で多数の個体を飼育すれば、糞尿で床砂が汚染される割合が増え、有害な雑菌が繁殖する原因になるため、床砂の洗浄頻度を増やす必要があるだけでなく、貝殻の奪い合い、脱皮時の強襲などのリスクも高くなる。

雑食で「海の掃除屋」と呼ばれるくらいなので、何でも食べるのかと思いきや、意外と食にはうるさく、好き嫌いがはっきりしている。
しかも個体によって好きな食べ物が違っていたりするので、バランスよくエサを用意するのは大変。

植物メインの雑食なので、レタスやらキャベツやらキュウリなどをモリモリ食べるのかと言えば、そうでもない。
ただ、水槽内で育てているアダンの葉はボロボロなので、レタスやキャベツよりもアダンの葉がお好みらしい。

市販のエサではオカヤドカリ用のポップコーンが大人気で、10~15個与えると常に完食するが、オカヤドカリ用のゼリーはツマミ食い程度で、粒状のエサに至ってはほとんど手を付けない。
煮干しや小粒クリル(乾燥したオキアミ)などは、毎日与えていても時々しか食べないが、脱皮の前後は小粒クリルが人気。
また、イカの甲(カトルボーン)も与えているが、食べるどころか、エサとして認識しているのか疑わしいレベル。

結構なグルメで食い付きの良いエサでも、連日与えると食べなくなり、当て付けのように水槽内に設置している天然流木を食べ始めたりする。

水と海水

オカヤドカリは呼吸に水分が必要なので真水は必須。
水道水に含まれるカルキ(次亜塩素酸)は、人体には影響がないものの細菌を抹殺する程度の殺傷力はあり、小さなオカヤドカリにとっても危険な物質なので、カルキ抜きをした水を常に用意しておく。

一部でオカヤドカリが貝ごと浸かるくらいの水入れを推奨していたので、当初は深めの水入れを使用していたのだが、彼らが喜んで水場に飛び込むようなことはなく、どちらかと言えば水に浸かるのを嫌っているように見受けられたので、餌場と同じ容器に真水を入れてみると、餌場には普通にズカズカと這い上がっていくのに対し、水場では身体が水に浸からないよう器の縁を歩き、水に浸かろうとはしなかったため、現在は小さなオカヤドカリでも水没しない程度の浅い水入れに変更した。

真水はオカヤドカリが乾燥しないための命の水だが、飲料水としては真水よりもミネラルなどを含んでいる海水がお好みのようで、真水と海水を並べて置くと、海水を摂取していることが多い。

オカヤドカリの活動

数年前にオカヤドカリの飼育がブームだったらしく、ネット上には飼育に関する情報も多い。
ただ、多くの情報に「オカヤドカリは夜行性」という記述が見られるものの、実際に飼育をしてみると毎日のように昼間に活動している。
たまたま飼育しているオカヤドカリだけなのかもしれないが、6匹が6匹とも似たような行動をとっている。

水槽の前で見ていると動く気配すらないものの、カメラを設置して観察すると、毎日ほぼ午前11時過ぎから動き出し、活発に活動するのが午後3時くらいまで。
それ以降はおとなしくなり、午後11時くらいからガサゴソと活動を再開するものの、それも2~3時間程度で静かになる。
どうやらオカヤドカリは「安全を確認できれば昼夜の別なく活動する」らしい。

ただ、オカヤドカリは毎日のように動き回るわけではなく、まるで充電切れを起こしたように、木にしがみついたり、岩陰などで丸まったまま、全く動かなくなるときがある。それも半日から長ければ24時以上、時間が停止したような感じで動きを止めてしまう。
生きているのか疑わしいほど動かないものの、充電期間が終了すると何事もなかったかのように活動を再開するので、心配する必要はないらしい。

動かないからと、触ってみたり霧吹きをかけたりするほうが、よほどオカヤドカリのストレスになるので、何もせずに見守ることが大切かも。

脱皮と宿替え

オカヤドカリは脱皮を繰り返して成長し、自分の大きさに合わせて宿貝を変えていく。
脱皮の前後には小粒クリル(乾燥したオキアミ)など、カルシウムが豊富な動物性のエサを好んで食べる傾向がある。

脱皮の際は、床砂の厚みが充分確保されていれば、10cm以上の深さまで潜っていくので、穴掘りが好きな他のオカヤドカリに発見されるリスクも少ない。
また、当然ながら様子を見るために掘り返すような愚行は厳禁で、脱皮中のオカヤドカリがいると砂の入れ替えもできないため、糞尿で汚染される表面部分のみを交換するなど、衛生管理も注意が必要。

脱皮の期間は2週間前後から1ヶ月くらい、長ければ2~3ヶ月出てこなかったという記事もある。
いつ終わるのか、生きているのかどうかも分からないまま待つというのは難しいものだが、脱皮して砂中から出てくるまでは、無事を祈ることくらいしかできることは無い。

脱皮後にあまり動かないことがあっても、数日かけて身体の調整をする感じなので、触ったりせず元気に動き始めるまで見守ってあげる。

脱皮と無関係ではないが、オカヤドカリは気に入った貝を見つけると、しっかりと吟味して、試しに入ってみたりもしながら、満足のいく貝に出会うと宿替えをする。
オカヤドカリも隣の芝生は青いらしく、脱皮中のオカヤドカリを強襲して宿貝を奪うようなこともあるようなので、無駄な争いを起こさせないためにも、床砂はしっかりと厚みをもたせておくのがベター。

木登りと穴掘りと隠れ場所

オカヤドカリは木登りと穴掘りが得意というか、生業としている感じ。
木登りと穴掘りは結構な運動量で、狭い水槽内を3次元的に活用するためにも、床砂はしっかりと厚みをもたせ、よじ登れるような流木などを設置すると、様々な表情のオカヤドカリを見ることができる。

また、オカヤドカリは非常に臆病な生き物で、外敵から身を護るため岩陰などに隠れる性質があるため、隠れ場所を作ってあげることも必要。

時には木の上で「どうしてこうなった」という状況になっていたりする。

突貫工事でトンネルを作った場面に出くわすと、オカヤドカリのドヤ顔が拝めたりする。

オカヤドカリの日光浴

オカヤドカリは甲殻類なので、日光浴は必要がないといわれている。
ネット上でも日光に当てることで水槽内部の気温が上昇して、オカヤドカリが死亡するリスクがあるといった感じの記事が目立つ。

亀が甲羅干しをしたり、トカゲが日光浴をするのは、体温調整のほかビタミンDを生成するために紫外線が必要だからで、人間も日光浴不足になるとビタミンDが欠乏し、クル病などが発症してしまうが、オカヤドカリの場合はビタミンDの生成が不要なので、日光浴をさせる必要はない。

ただ、オカヤドカリは日光が苦手というわけではなく、型板ガラス越しの紫外線が低減された柔らかな陽射しであれば、自ら日の当たる場所に移動して日光浴をしているようにも見える。
一方、直射日光は人間でも長時間浴び続けるのは危険なので、乾燥するリスクも含め、小さなオカヤドカリが大量の紫外線を浴びて平気なわけはなく、直射日光が差すと必ず日陰に移動する。

型板ガラス越しの柔らかな朝日であれば、日光浴をしているような姿を目にする。

直射日光だと石や木の陰に身を潜めるので、強烈な日差しはお好みではないようだが、甲殻類に日光が必要ないとは言え、オカヤドカリが生息しているのは陽射しの厳しい沖縄。

日光による水槽内の温度や湿度の変化、日光を避けることができる場所などには気を配る必要があるものの、直射日光には殺菌効果もあるので、敢えて避けるべきものではないような気もする。