オカヤドカリの繁殖

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飼育ガイド

繁殖の概要

オカヤドカリの繁殖期は、種によって違いますが、5月下旬~9月頃まで(ナキオカヤドカリは11月頃まで)です。また、繁殖期に2回以上抱卵するメスもいると考えられています。

交尾の後にメスが卵を産み出し、腹部の付属肢(腹肢)に付けて抱えます。抱卵期間は、おおよそ1ヶ月前後です。自然界では日没後にメスが波打ち際まで歩いていき、海水に浸かります。卵は海水に触れると孵化し、メスは海水の中で体を動かして放出を助けます。

孵化した幼生は「ゾエア」と呼ばれ、1回の放幼で数千匹のゾエアが放たれます。ゾエアは4~5回の脱皮を経て、グラウコトエ(メガロパ)に変態します。グラウコトエになると貝に入って背負います。この状態で上陸し、陸上で脱皮して稚ヤドカリへと変態します。

ゾエア期は約3~4週間、グラウコトエ期は約2~4週間、上陸から稚ヤドカリまでが約2~3週間です。成長には個体差があり、ゾエア期だけでも10日ほどの開きがあります。孵化から稚ヤドカリを確認するまでは、おおよそ2ヶ月です。

オカヤドカリの繁殖記録
飼育中のオカヤドカリが水入れに放幼したゾエアを、準備のない状態から稚ヤドカリまで育てた記録です。曝気の有無と容器の大きさの比較、上陸槽の全滅と構成の見直し、固形餌の比較と餌を与えた後の全滅、稚ヤドカリを確認するまでの経過をまとめています。

事前準備

飼育下で繁殖させる場合は、5月初旬にケース内に海水の入ったプールを設置します。抱卵したメスは、海水プールがないと、水入れの海水に放幼します。海水がなければ真水に放幼しますが、真水ではゾエアは生存できません。
海水プールは大きいほど良いですが、いつ放幼するか分からない状態で、大量の海水を扱うのは現実的ではありません。プールには、浅く広い容器を選びます。ゾエアが放たれたプールは急速に酸素量が低下するため、水量に対して水面が広く、酸素が溶け込みやすい形が適しています。可能であれば、浅い海水プールでも弱めの曝気(エアレーション)をかけておくと、水が循環し、水面から取り込んだ酸素が無曝気の状態よりもはるかに速く全体に行き渡ります。
また、同じ広さの容器でも、水深を深くする場合は曝気が必要になります。ただし、強い曝気はゾエアを害するため、弱めにしておきます。

水中の酸素は、主に水面から溶け込みます。空気と接しているのは水面だけなので、水が取り込める酸素の量は水面の広さで決まります。
同じ広さの容器で水を深くすると、水面の広さは変わらないまま、水の量だけが増えます。水の量に対して水面が占める割合が小さくなるため、水1mlあたりに補われる酸素は少なくなります。さらに、水面から溶け込んだ酸素が深いところまで届くには時間がかかります。動きのない水の中では、酸素が広がる速さは非常に遅く、届くまでの時間は深さの2乗に比例します。深さが2倍になれば4倍、3倍になれば9倍の時間がかかります。そのため、浅く広い容器ほど、底まで酸素が行き渡りやすくなります。

海水プールの水は、毎日交換するのが理想です。オカヤドカリは水場に糞をすることが多く、放幼はいつ起こるか分からないため、常にきれいな海水を保っておきます。また、浅く広い容器は水が蒸発しやすく、そのままでは海水が濃くなっていくため、継ぎ足しではなく入れ替えを基本にします。

容器

ゾエアやグラウコトエの群飼育は、密度が高いほど生存率が低下する傾向があります。また、脱皮殻や死骸、生き餌の回収が必要なため、ケース内の海水は毎日換水することになります。

飼育ケースに決まりはありません。ただし、深いケースの場合は曝気が必要で、エアーポンプや分岐コック、エアストーンなどもケースの数に応じて準備します。また、フィルターをつけて海水を循環させる方法もありますが、数mmのゾエアが吸い込まれないような工夫が必要です。

曝気なしで飼育する場合は、広く浅いケースを用意します。当サイトの飼育環境では、容量が1100mlの長方形のジップロックを使用しています。容器の深さは5cmほどで、1Lの海水で水深は約4cmになります。

海水1Lに対するゾエアの数は、300匹程度が上限の目安ですが、この密度でもゾエアの段階で3~4割が死亡しました。また、生存率は水の量だけでなく、底面積の広さも関係していると推測されます。そのため、密度を下げようとするとケースの数が増え、換水などの手間も負担になります。
放幼されるゾエアの数には幅がありますが、2000~3000匹を目安にすると、必要な容器の数が割り出せます。

グラウコトエは、貝殻を背負うと上陸するため、貝を背負った個体は、陸上槽に移す必要があります。
天然の環境を再現しようとすると、大きなケース内に細かなサンゴ砂を敷き詰め、小型の海水ケースを設置し、海水ケースにサンゴ石などで傾斜をつけ、海中から砂浜に上陸するような構成になります。
ただし、この構成は大掛かりな割に、使用するのは入殻したグラウコトエが上陸するためだけのもので、あまり効率的ではありません。
入殻したグラウコトエの多くは数日で上陸するため、陸上槽の中にシャコ貝などで海水プールを用意し、そこに移すだけでも十分です。

陸上槽に使用する容器は、プラスチックの収納ボックスなどが便利です。

海水

海水は人工海水を使用し、作る際はハイドロメーターで比重を確認します(目安は1.022前後)。また、放幼の時期が初夏頃であれば、地域によっては水温が26℃を下回っている可能性があるため、水温計で温度を確認し、ヒーターなどで28℃を目安に調整します。

仮に1Lのケースを10個用意した場合、最低でも毎日10Lの海水が必要になります。そのため、海水を作る際に、容量が分かる大きめの容器があると便利です。

餌

ゾエア期・グラウコトエ期では、生き餌(ブラインシュリンプ)を与えます。そのため、ブラインシュリンプエッグスを孵化させるためのケースと、エアレーション一式が必要です。

ケースは1~2Lのプラケースを用意し、強めに曝気します。孵化には24時間かかるため、前日に翌日分の仕込みを行います。

孵化させる卵の量ですが、餌を投入してから24時間後にブラインが少し残る程度が目安です。食べきる量にしないのは、ゾエアの共食い抑止効果を期待してのものです。

ゾエア期

孵化したゾエアは、エビのような形状をしています。海水プールに大量のゾエアを確認したら、可能な限り早急に複数の海水ケースを用意して分散させます。海水の温度は28℃前後が目安です。研究では、25℃を下回ると死亡率が上がり、20℃を下回るとグラウコトエまで育たなかったことが報告されています。

海外では、ゾエア槽やグラウコトエ槽に、ナンノクロロプシスという海に生息する単細胞の微細藻類を添加するのが一般的です。ナンノクロロプシスは、魚の油に多いEPAを作る藻です。ブラインシュリンプはEPAが少ないため、ナンノクロロプシスを添加してEPAを補う狙いがあると思われます。
ただし、当サイトの飼育環境では、ナンノクロロプシスを添加せず、ブラインシュリンプのみで稚ヤドカリまで到達しているため、必ずしも必要ではないと考えられます。

ゾエアは泳ぎ方もエビと似ています。脱皮のたびに成長し、グラウコトエに変態する直前の体長は5mm程度になります。身体が半透明なので、ブラインシュリンプを食べると色素が透けてオレンジ色に見えます。

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ゾエアを数えるのは現実的ではないので、1Lに200~300匹は目分量になります。分かりづらいですが、上図のゾエアで約250匹前後です。広い容器では数値以上に少なく見えるため、分散時には注意が必要です。

このような容器が複数できます。ガス交換が必要なためフタは閉めず、蒸発による塩分濃度の上昇を抑えるため、上に乗せておきます。容器は、直射日光の当たらない明るい場所に置きます。直射日光は水温を急に上げる原因になります。

給餌

ゾエアには生きたブラインシュリンプを与えます。ブラインシュリンプは孵化後しばらく卵黄を栄養にしており、時間が経つほど栄養価が下がるため、24時間を超えたものは換水時に回収します。

孵化したブラインシュリンプと卵の殻は、2つのフィルターで分けるのが一般的です。ただし、孵化に使う海水をゾエアの飼育水と同じ濃度にしておけば、エアレーションを止めてから、ライトで集めたブラインシュリンプをスポイトで直接吸って与えられます。

ブラインシュリンプエッグの孵化は難しくありませんが、はじめて使用する場合は、オカヤドカリが放幼する前に、孵化させてみることを推奨します。

換水

ジップロックのような1L前後の容器での換水は、水槽の掃除で使用する大きめのスポイトを使用します。ゾエアは走光性(光に集まること)があるため、ライトを側面から当てると、換水作業がしやすくなります。
換水時は、底面に溜まっている脱皮殻(白い浮遊物)や死骸を海水と同時に吸引します。ゾエアの密度が高いと、水の汚染度も高いため、海水が半分ほどに減った時点で新しい海水を側面に沿わせるか、漏斗などを使用して投入します。さらにケース内のブラインシュリンプを吸引しつつ、半分を目安に換水します。

給餌や換水に気をつけていても、200匹を超える群飼育では毎日数%の個体が死んでいきます。ただし、大量死が発生した場合は、原因が別にある可能性が高いため、新しいケースを用意するなどの対応が必要です。

水の汚れの見分け方

上から見ると澄んでいるように見える海水でも、ライトを横から当てると、細かな浮遊物が見えることがあります。浮遊物が目立つようであれば、水が汚れてきている目安になります。

海水の作り置き

換水が終わったら、翌日の換水用の海水を作っておきます。作ったばかりの海水は水道水の温度に近く、そのまま使うと飼育ケースとの温度差が大きくなるため、ゾエア槽と同じ場所に一晩置いて室温になじませておきます。

海水を作る際は、毎回ハイドロメーターで比重を確認し、1.022前後に合わせます。人工海水の素は計量スプーンで量っても誤差が出やすいため、量より比重を基準にします。ペットボトルなどで作り置きすると、底に溶け残りが見られることがありますが、比重で合わせていれば濃度に影響はありません。

スカベンジング(屍肉食)

観察した範囲では、ゾエアが摂食を目的として仲間を攻撃している場面は見ていません。ただし、弱っている個体に対して、突っつくような行動がしばしば見られ、死亡したゾエアの死骸も食べます。

弱った個体に対する攻撃は、ゾエアの密度が高いほど発生しやすいと考えられます。当サイトの環境下では、同じ1Lでも、水深のある底面積の狭いケースのゾエアに多く見られました。

グラウコトエ期

ゾエアは3~4週間するとグラウコトエに変態します。変態は命がけで、変態の途中で命を落とす個体や、変態で力尽きる個体が多数います。実数は出せませんが、感覚的には半減するような減り方になります。

ゾエア槽にバルタン星人のような見慣れない個体がいたらグラウコトエです。ゾエアと違って直進でき、泳ぐスピードが非常に速くなります。形状はザリガニに似ており、前肢がハサミになっています。

グラウコトエは、ゾエアを摂食するため、ゾエア槽でグラウコトエを確認したら、別の容器にスポイトで吸って移動させます。グラウコトエへの変態が進んだゾエア槽を、統廃合することで、全体のケース数を増やさず、分散が可能です。

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グラウコトエ槽では、入殻に必要な貝殻と隠れ場所になるサンゴ石を投入します。用意する貝殻は、殻口が2~3mmで軽いものを多めに用意します。

給餌

グラウコトエには、ペレットや冷凍のアダルトブラインなどを与えます。ただし、海水の容量が少ないため、餌が過剰だと水質が急速に悪化します。最悪の場合、ケース内のグラウコトエが全滅する可能性もあるため、給餌の量には注意が必要です。

冷凍餌は、キョーリン ビタクリンアダルトブラインミニキューブを使用しています。1つのキューブを6~8分割して、分割した1ブロックを茶こしに入れて浄水で解凍し、爪楊枝などで一欠片ずつグラウコトエの近くに落としていきます。一欠片でも数匹のグラウコトエが食べ切れないほどの量があります。

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ペレットは、キョーリン ザリガニのエサと、テトラ ビーシュリンプを使用しました。ペレットは、冷凍餌の過剰給餌を避けつつ、グラウコトエを空腹にしないための予備的な使い方をしています。

換水

グラウコトエ槽の換水も、基本的にはゾエア槽と同じです。スポイトで餌の残りや死骸などを吸い取り、前日に用意した海水を投入します。入れ替える割合は、ケース内のグラウコトエの個体数や水質に応じて決めます。

ゾエア槽と違って、グラウコトエ槽はケース内の個体数が少なく、脱皮をしないため、ゾエア槽よりも水質の低下は少ないです。ただし、餌の残りや死骸があるため換水は必要です。

当サイトの環境では、朝に前日のペレットを回収し、冷凍餌と新しいペレットを与えます。夕方に冷凍餌とペレットを回収し、同時に3分の1ほど換水します。この時、新しい冷凍餌を与えます。数時間後、冷凍餌の回収と同時に3分の1ほど換水し、ペレットを与えるというルーティンでした。

共食い

グラウコトエは、ゾエアを捕食するだけでなく、他のグラウコトエを攻撃して死に至らしめることがあります。そのため、できるだけケースを分散させ、ケース内の飼育数を減らしたほうが、生存率が上がります。

ゾエアを捕食している場面です。前肢で掴んで捕食します。

観察する限りでは、他の個体への攻撃は、ゾエアのように捕食する目的ではないと思われます。また、弱っている個体が狙われやすい傾向があります。

入殻

グラウコトエはゾエアのように段階的な脱皮がなく、早い個体では変態してから数日、多くは1~2週間程度で貝を背負います。ただし、この期間も個体差が大きく、当サイトの環境では、同じケース・同じ貝殻の条件でも、変態から10日前後で入殻する個体がいる一方で、2週間近く経っても入殻しない個体がいました。

繊細なのか、貝に入っても数時間後に抜け出すことも多く、なかなか安定しません。対処法としては、貝の数を増やすことくらいしかありません。

上陸

入殻したグラウコトエの多くは数日で上陸します。陸上槽は入殻してから準備しても遅くはありませんが、使用するサンゴ砂や設置する流木、温湿度計などは事前に準備しておきます。床砂にするサンゴ砂はパウダーを使用します。当サイトの環境では、ケース内の湿度維持も考慮して、床砂の厚さは7~8cmにしています。1kgのパウダー7袋を使用して、2Lの真水で湿らせました。
また、貝を背負ったグラウコトエや稚ヤドカリは、頻繁に引っ越しを行うので、陸上槽には多めに貝殻を投入しておきます。

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上図は、収納ボックスをケースに使用した陸上槽です。グラウコトエ槽で入殻した個体を、ピンセットなどで貝の部分を摘んで、図の左下にセットしているシャコ貝の海水プールに移動します。貝は滑るので、移動する際は慎重に行います。

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陸上槽へ移動するタイミングは、設置しているサンゴ石に入殻したグラウコトエが登ったときです。サンゴ石に登らない個体であれば、入殻してから半日~1日ほど様子を見てから陸上槽へ移します。

稚ヤドカリ

陸上槽で上陸したグラウコトエは、数日~1週間程度で潜砂して脱皮し、稚ヤドカリに変態するとされています。潜っている期間は数日程度です。ただ、群飼育では個体を識別することが難しく、実際には上陸から稚ヤドカリを確認するまでは約2~3週間という感覚です。

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写真だとズームで確認できますが、変態直後は入殻時と同じ5mm程度の貝を背負っているため、個体の形状を目視で確認するのは困難です。

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稚ヤドカリになると、身体が大きくなるだけでなく、ハサミも左右非対称になり、グラウコトエよりも大きくなります。稚ヤドカリに変態してしばらくすると、グラウコトエのときより1回り大きな貝を背負い始めます。

給餌・水場

稚ヤドカリが1cmほどまで成長すれば、刺し身などを直接与えても、ハサミを使って器用に食べますが、上陸したてのグラウコトエや変態直後の稚ヤドカリは、大きな餌だと食べにくいため、生くるみ・乾燥シュリンプ・ペレットをすり潰して与えます。

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当サイトの環境では、あさりの殻を皿として使用しました。生くるみ・乾燥シュリンプ・ペレットは別の殻に入れ、毎日交換します。すり潰した餌は、高温多湿の環境下ではカビが発生しやすく、特に生くるみは1日以上経過するとカビが生えます。

すべてのグラウコトエが上陸したら、海水プールは不要なので撤去します。代わりに、ハマグリの殻などを使用して飲料用の海水を設置します。真水は、海綿に含ませてハマグリの殻に乗せて与えています。

ケースのメンテナンス

稚ヤドカリは陸上槽で飼育します。高温多湿の環境のため、1ヶ月に1回の頻度で床砂の入れ換えを行います。
当サイトの環境では、同じケースを2つ用意し、新しく一式揃えたケースに、稚ヤドカリを移動させました。この方法では、新しいケースの温湿度が事前に調整でき、稚ヤドカリを別のケースで待機させる必要もありません。

稚ヤドカリの飼育で厄介なのは、グラウコトエから稚ヤドカリに変態した個体数の把握が難しいことです。稚ヤドカリを確認しても、頻繁に宿貝を変えるため、貝の色や形状で個体を識別することもできません。そのため、ケース交換時は、潜砂して脱皮中の個体が存在する可能性を考慮し、すぐに洗浄せず、1週間ほどは温湿度管理を保ったまま、様子を見ることを推奨します。

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